8年前の立春

立春が来るとおかんは8年前のことを思い出すんだ。オイラの前に飼われていたハスキー犬のチャッピーが13歳の9月、夏を越せたねって思っていたら倒れたんだ。おそらく、腰を打ったんだろう。3日間、苦しそうな、悲鳴のような鳴き声を上げていた。下げようとしたおとんを噛み、不安そうな顔をして、犬も家族も困り果てていた。口輪さえやれれば獣医さんを呼べるのにと、もどかしい日々が続いた。数日後、一大決心をしたおとんが、腕にパイプを嵌めて口輪を当て、おかんが恐々引っ張った。何とか車庫に運び、獣医さんを呼んだ。オシッコで汚れた腹部にウジが群がった。毎日ウジの退治と消毒、体の向きを変えてやり、尿で汚れたペットシーツの取り換えの日々だった。夜になると心細いのか呼ぶので、隣に座ってブラッシング。「いつまで続くのかな〜?」って思うこともあった。でも、3か月くらいして、チャッピーが少しずつ、後ろ脚を立てるような仕草をした。「もしかしたら、立てるかも?」「もう一度歩かせたい」と希望がわいた。そして、立春の日の朝、車庫の扉を開けたら立っていたんだ!あの時の感動は忘れないんだって。本当に嬉しかったんだ。小学生の時、国語の教科書に「立春に卵が立つ話」が載ってたらしいけど、ワンコも立ったんだよ。寝たきりから5か月、チャッピーも頑張ったんだ。その後、ヨチヨチだけど2か月、自分の足で歩いて逝ってしまったそうだよ。立春の日の思い出だよ。